イザイの絆🎻🎹
聴きどころ
安川智子さんのメモより
Recitativo et scherzo クライスラー (イザイに献呈)
ニ短調の「レチタティーヴォ」とヘ長調の「スケルツォ」で、曲調も音楽の性質もがらりと正反対に変化するところが魅力(レチタティーヴォは歌のように自由で叙情的な音楽であり、スケルツォは諧謔曲なのでリズミックでおどけた曲調)。無伴奏なのでますますヴァイオリンの自由度があがる。レチタティーヴォのニ短調は、上記《ポエム・エレジアク》の基本となる調と共通しているので、聴き手の哀悼的な気持ちを引き継ぎつつ、自然と明るく変化させてくれる。
2023年5月12日 武蔵野市民文化会館小ホール
2023年5月13日サントリーホールブルーローズ
2023年5月15日 アクロス福岡シンフォニーホール
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第4番 イザイ(クライスラーに献呈)
いうまでもなく、J.S. バッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ(とパルティータ)》を意識した高度な技巧をもつ作品集(全6曲)の中の1曲。バッハの作品は、通奏低音による伴奏が当たり前だった時代に、旋律も伴奏(和声)も全て一挺のヴァイオリンだけで表現しようとした極度に精神的な作品で、イザイもそれを受け継いでいる。対位法的な横の線と縦の線の絡み合いを、幾何学模様のように聴き味わってほしい。ゆったりとしたテンポのアルマンド、サラバンドという舞曲の後、速いプレストが続く自由な三楽章形式。(なおバッハは「パルティータ」で舞曲を組み合わせているが、イザイのソナタ集には、この舞曲の要素も組み込まれている)
Poème élégiaque(ポエム・エレジアク) イザイ (フォーレに献呈)
楽譜には細かく調弦や奏法についての指示があり、西洋のアカデミックなヴァイオリン奏法にとどまらず、即興的なヴァイオリンの旋律のほとばしりが楽譜からでも再現できるようにとの配慮が感じられる。悲歌、哀悼歌という意味をもつ「エレジー」とも関連する「悲歌的な詩(ポエム・エレジアク)」は、身近な人の死を哀しむような切ない感情の表現である。前半ではその内面的な感情を存分に噴出させ、中間部の「葬送の場面scène funèbre」で厳そかに感情を鎮めるものの、再び思いが溢れ出るかのように高まり再現部となる。最後は鎮魂歌のように静まって終わる。
ソナタ形式のような3部分構成であるが、即興的なメロディーラインのため、一つづきの感情の発露として聞くことができる。(ガブリエル・フォーレに献呈されているため、フォーレの有名な《エレジー》も意識されていると思われる)
ラフマニノフ 前奏曲 より
前奏曲(プレリュード)とはもともとオルガンで言えば、「前奏」として即興的に奏でられる小品であり、バッハの《平均律クラヴィーア曲集》における「プレリュードとフーガ」で、24の全ての調で作曲する、という作曲家の試みに結び付けられるようになった。ラフマニノフもまた、同様の試みであるショパンの《24の前奏曲》にならい、24の全ての調で作曲しているが、曲集としては一つにまとまっているわけではなく、Op.3-2(嬰ハ短調)、《10の前奏曲》(op.23)、《13の前奏曲》(op.32)と分かれている。今回演奏される楽曲は
当然全て調が異なるので、各調の個性と違い、そしてショパンを想像させる詩情を楽しんでほしい。Op.3-2は通称「鐘」と呼ばれ、人気作である。
クライスラー(ラフマニノフ編曲) 愛の悲しみ、愛の喜び (ピアノ独奏)
とても有名な曲なので、ほっと一息つける。「悲しみ」「喜び」という人間の素朴で自然な感情を、ヴァイオリンで旋律化したものを、さらにピアノ用に編曲しているので、直接に感情に訴えるわかりやすい旋律が魅力。「悲しみ」にもどことなく明るさがあり、「喜び」は
踊る心を表現しているようで幸せな気分になる。
休憩
イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番
「バラード」と題されており、一つづきに演奏される。ニ短調で「レチタティーヴォ風に」とあるため、前半のクライスラー《レチタティーヴォとスケルツォ》のレチタティーヴォと共鳴し合うのも聴きどころである。
エネスク ヴァイオリンソナタ第3番
エネスク最後のヴァイオリン・ソナタであり、1926年の作曲なので、その現代的書法や超絶技巧(特殊奏法、民族楽器の模倣など)、無調的曲調など、19世紀から積み重ねられた西洋的ヴァイオリン・ソナタが、グリーグやバルトークなどの民俗的要素を取り込みつつ行き着いた極点(そして最高峰)として楽しめる。「ルーマニア民族の様式で」とあるが、技巧面だけでなく、戸田氏とエル・バシャ氏によるその民俗的精神性の表現をじっくりと味わって聴いてほしい。
【こぼれ話】 ikuyo Nagata
【こぼれ話その1】
#アブデルラーマンエルバシャ #戸田弥生
これまでは先ず演奏曲を企画してアーティストが決まっていく順番でしたが、今回はアーティストが先でした。
エリザベート王妃国際コンクールで世界的な注目を集めた戸田弥生、エル・バシャ両氏は、優勝年は違えど自ずからコンサートやレコーディングで長年(25年以上前から)共演を続けておられます。互いに信頼し合い、そしてなお学びつづけるおふたりの姿に深く感銘を受けます。
身も心もエネルギーを出し切るパワフルなヴァイオリンソロやデュオ、そしてピアノソロを初めて加え、練りに練って立案しました。
「想い出深い大好きな曲ばかり!」と戸田弥生さん
「Beutiful Program!」とエル・バシャさん
このお二人でないと有り得ないプログラムが組めたことに
ただただ感謝の気持ちでいっぱいです♪
ここでは皆様の感想など、コメントを自由に書き込んでくださいね♪
チケット
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【こぼれ話2】
#ラフマニノフ
#クライスラー は1924年(44歳)にアメリカからヨーロッパへ戻りベルリンに住むようになり、マネージャーが同じだった#ラフマニノフと親交を深めるようになったそうです。
ラフマニノフはクライスラーの「愛の喜び」と「愛の悲しみ」をピアノソロ用に編曲、また「コレルリの主題による変奏曲」をクライスラーに献呈しています。一方クライスラーもラフマニノフの歌曲にヴァイオリンのオブリガードを追加した編曲、ふたりはソナタの録音も残しています。
編曲者ラフマニノフの演奏する【愛の悲しみ】、バイオリンの奏でる哀愁を帯びた音色とは違い、切なさや憧れといった気色を、軽ろやかで力強いピアノならではのダイナミクスで引き出しているアレンジですね?
Pf.#アブデルラーマンエルバシャ さんが愛してやまないラフマニノフの世界、大変たのしみです。
チケット
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演奏
https://www.youtube.com/watch?v=2wODzXCuVHg
【こぼれ話3】
23歳も年上のイザイから献呈された無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番を、G.エネスク(1881~1955)は、パリで行われたイザイのマスタークラスで弾いたそうです。
E.イザイ(1858~1931)から受けた次のようなアドヴァイスが残っています。
「音楽がなければヴィルトゥオジティ(名人芸)は空しいものです。すべての音が生きていて、歌っていて、痛みや喜びを表現していなければなりません。素早く歌う音符の羅列に過ぎない「ストローク」でも、画家のように描きましょう.....。
なによりも音楽が先決、 常に深い呼吸をして、ヴァイオリンのなかに自分を閉じ込めないで、ヴァイオリンの中で自分を解放しましょう。
そして、音楽に語りかけましょう。」
E.イザイのメッセージ
「Ne jamais rien faire qui n'ait pour but et moyens, l'émotion, lapoésie, le coeur. Eugène Ysaÿe
情・詩・心なくして何事もなし得ることはない。」
わかりにくい文章ですけれども、彼の音楽人生で最も大切にしていた何かが、、窺えるのではないでしょうか?
チケット
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"La virtuosité, sans la musique, est vaine, déclare -t-il. Toute note, tout son, doivent vivre,chanter,exprimer la douleur ou la joie.Soyez peintre, même dans les « traits » qui ne sont qu'une suite de notes qui chantent rapidement...
De la musique avant toute chose ! Respirez toujours a pleins poumons. N'enfermez point votre violon en vous , dégagez -vous en lui
,et parler parfois pour lui et pour la musique"
(1989 Maxime Benoît-Jeannin : Eugène Ysaye )
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☆無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番「バラード」
1923年7月作曲、1925年11月にブカレストでエネスクが初演、
次回は戸田弥生さんが演奏します。
【こぼれ話4】
イザイはPoèmeと副題を付けた作品を12曲遺していますが、ポエム・エレジアクは<Poème>の作曲に情熱を傾けるようになった重要な作品で、シェークスピアの戯曲で悲劇「ロミオとジュリエット」に着想を得たものです。
イザイは最低弦を低く調弦して暗く暖かい音色にするスコルダトゥ―ラなどの工夫を施しているのですが、ヴァイオリニスト戸田弥生さんから「ポエム・エレジアクを冒頭にもってきましたら、そのあとの作品が多少狂ってくる(音程)のが予想されます。」と心配されました。
よって冒頭は、クライスラーの「レスタチーボとスケルツオ」から始まり、イザイのソロ4番、ポエム・エレジアク、ピアノソロで休憩して後半へ続くことになりました♪
G線を2度下げて弾くということは、、、ヴァイオリンを演奏される方のみぞ知ることですね。
冒頭は抒情的な主題で始まり徐々にアクセント、シンコペーション、フォルテfffが多用されロミオとジュリエット死後の深淵のような深い悲しみの場面が表現され、ヴァイオリンとピアノが交錯しながら昂揚する葬送の場面へ続き、冒頭の主題と葬送の主題が重なり終結コーダはヴァイオリンが崇高なトリルを奏でる。このトリルはショーソンが受け継いだとされるトリルですね。ショーソンはイザイのポエム・エレジアクに触発され、イザイのアドバイスを受けながら詩曲op.25を作曲しました。
ショーソンはこのトリルにどんな想いをこめたのでしょう...#日本イザイ協会
写真画像引用:
ヴェローナのジュリエットのバルコニー
チケット https://www.ysayejapan.com/concert-ticket/
【こぼれ話5】
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#クライスラー は世界戦争の時代に波乱万丈の生涯を送り、戦争体験記を遺しています。他、クライスラーの遺した言葉を引用してみました。
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唯一の著書ヴァイオリニストの従軍記『塹壕での四週間』、
伝記「#フリッツクライスラー」より
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「それは型どおりの無情な召集令状でした。私は大きな風車の歯車か、巨大な物体の一原子にすぎなかったのです。」。
「われわれは何世紀もかけて学んできたことをなんと簡単に投げ捨ててしまうものかと考えると、私は悲しい気持ちになりました。かつては普通の文明人だったわれわれすべてが、二、三日後には、外套を脱ぐように"文明"を脱ぎ捨てて野獣か原始人のようになってしまったのです」
「やがて、ある種のどう猛な感覚が体内に湧き上がり、戦闘以外のどんなことにも完全に無関心になります。かりに、塹壕(ざんごう)の中でパンをかじっているときに隣の男が撃たれて死ぬとします。一瞬、平然とその男を見つめますが、すぐにまたパンをかじり始めます。それがなぜいけないのでしょうか? つまり、どうしようもないのです。しまいには、食事の約束をするときのような自然さで、塹壕内で自分自身の死について語るようになります」
「宣戦布告の瞬間から、わが国ではすべての身分の上下が消滅しました。"なぜ芸術家が戦場に送られるのか?"そういう質問をする人は、国家への忠誠が価値あるものであるなどとは思ってもみないのです。私はオーストリア人です。開戦になったとたん、私はヴァイオリンのことなど、どうでもよくなり、そんなものを弾いたこともあったっけという心境になりました。」
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その他
クライスラーは戦死した音楽家たちの43人の孤児の生活の仕送りをするために積極的に演奏会を行い、熱心に取り組んでいました。1947年に、ショーソンの「詩曲」などを弾いて、カーネギーホールで引退の演奏会を行いましたが、1950年頃までは、地方公演にも出かけていきました。世界大戦でのヨーロッパの窮状を救うため、引退前後には預金や演奏活動での収入が以前のようには期待できないため、クライスラー夫妻は四十年にわたって収集してきた貴重な蔵書を救援物資を購入する費用にあてました。売却総額は、十二万ドルにもおよぶ額だったそうです。但し、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の自筆譜と、イザイから譲られたショーソンの「詩曲」の自筆譜だけはアメリカ国会図書館に寄贈されました。
「こういう本が手に入ったのも人々のおかげですから、目的を果たしたあとは人々のもとへ返すべきです。」と語ったそうです。
イザイとの深い絆には触れられませんでしたが、イザイはクライスラーの才能を好むばかりでなく、すばらしい人間性をもち博愛に満ちた人物であるということを深く理解していて、無伴奏ヴァイオリンソナタ4番をクライスラーに献呈した......頷けますね ♪#日本イザイ協会
チケット
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https://www.youtube.com/watch?v=QgnxDaRdK90&t=55s
フリッツ・クライスラーとセルゲイ・ラフマニノフが、ベートーヴェン、シューベルト、グリーグのソナタを華麗に演奏しています
【こぼれ話6】
ヴァイオリニスト #戸田弥生 さん はプログラム最後に演奏するエネスクのヴァイオリンソナタ第3番の魅力を次のように語ってくれました。
「久しぶりに、エネスクのソナタ3番をエル・バシャ氏 #アブデルラーマンエルバシャ と演奏します。日本ではなかなか演奏チャンスが少ない作品です。無伴奏ソナタ3番もエネスクに献呈されています。エネスクの演奏、作品は演奏していると魂を揺さぶられる、自分が全く違う世界にひとりで飛んで行ったように感じる、非常に感性の強い、鋭い作品です。演奏家として、自分の魂が音と一緒に生まれ変わることが感じられるのは本当に幸せ、後略。」
安川智子さんはエネスクのソナタについて「略… <ルーマニア民族の様式で>とあるが、技巧面だけでなく、戸田氏とエル・バシャ氏によるその民俗的精神性の表現をじっくりと味わって聴いてほしい。」とメモしていますが、
戸田さんは果たしてどんな世界に飛んで行くのでしょうね?……♪
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【耳寄りな情報】
今回取り上げるイザイとクライスラー・ラフマニノフ・エネスクとの「絆」について、ベルギー王立図書館音楽部門学芸員、「イザイ再発見」の著者である#MarieCornazマリエ・コルナーズさんによる執筆とパリ・ソルボンヌ大学でメトリーズ、東京藝術大学で博士号(音楽学)を取得 、北里大学准教授、専門は19世紀から20世紀初頭のフランス音楽で、イザイの音楽、ベルギーの音楽と音楽家にも関心を寄せる安川智子さんによるエッセイや曲解説を会場でお配りするパンフレットに掲載いたします。
あまり知られていないつながりを知る好機です。
チケット
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ピアニスト・作曲家ラフマニノフとイザイの絆を少しここに加えます。
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1901年12月15日にイザイとラフマニノフはモスクワでヴュータン、サン=サーンス、ベートーヴェンを共演したのが初めての出会いだったそうです。イザイが43歳、ラフマニノフ28歳の時です。ラフマニノフの音楽を高く評価していたイザイは、1904年2月14日、コンセール・イザイのオーケストラを指揮し、アレクサンドル・ジロティをソリストに迎えて、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ベルギー初演に臨みました。1912年1月27日、モスクワでイザイはラフマニノフと再び共演し、今度はラフマニノフが指揮をしてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏したそうです。
【クライスラー作曲ラフマニノフ編曲:Liebesfreud 愛の喜び】
#アブデルラーマンエルバシャ のピアノソロ
来る5月16日のプログラムでこの曲は皆様が一番聴きなれた曲です♪ラフマニノフはクライスラーの作品の編曲を2曲、Liebeslied愛の悲しみとLiebesfreud愛の喜びを1931年に作りました。どちらも軽快な曲で魅力に満ちており、ラフマニノフの個性的な音楽と人格が発揮されています。このLiebesfreudはハーモニーを変え音響特性を強め、新たな序奏とコーダを作りながらも、クライスラーの作品の持つ軽やかで魅力的なスピリッツをうまくとらえています。カラフルで逞しい序奏に始まり、魅惑的なクライスラーの主題が戯れるように奏でられる。クライスラーの後を追うのではなく、さまざまに輝かしく色彩的に扱っています。繊細でゴージャスです。ラフマニノフは複雑怪奇な和音やモチーフなどを思いのまま自由自在にあやつる天才ですね。
ピアニストエル・バシャ氏は演奏を楽しみにされています。ワクワクしますね
https://www.youtube.com/watch?v=gGmILVnE_dg
チケット https://www.ysayejapan.com/concert-ticket/